年末のご挨拶[忘れた頃に届く/2024年12月]

今年の振り返りとか、新しいジンを作ったよの話
小沼理 2024.12.29
誰でも

 いろんなことがあった2024年もあと数日。皆さんはどう過ごしているでしょうか。私は今日、夕方の新幹線で富山に帰省する予定です。

 実は年末年始に富山に帰省をしたことがありませんでした。出身は富山だけど、小学生の時に家族で神奈川に引っ越してきたから実家はこっちにあったし、祖父母も私が10代の頃までには亡くなっていたので、わざわざ年末年始に富山に帰る理由が特になかった。実家も人に貸していて泊まるところもなかったし。

 それが去年、母が故郷の富山に帰ることに。会う人もいるし泊まるところもあるし、それならと私も年末年始に帰ってみることにしました。

 神奈川に実家があった時も年末年始に帰ることはあったけど、電車で30分とかだったからあんまり帰省って感じがしなかったんですよね。32歳、はじめての「帰省」。これがみんながやってるあの「帰省」…! とテンションが上がっています。「わあ〜年末の新幹線ぜんぜん取れないじゃん! なんだよ〜!」とか、「東京駅、人多くて疲れそうだな〜!」とか、一つ一つにはしゃいでいる。

 ちなみに富山、警報級の大雪らしいです。果たして無事に帰れるのか。富山の天気が荒れるということは北陸も似たようなものだろうから、能登とか被災した地域が心配。地震からもう1年が経ちますね。どうか暖かい場所で穏やかな気持ちで過ごせる時間があってほしいと思います。

 帰省を決めてからは富山の天気予報をよく見ていました。自分が今いる街とは違う場所の天気を想像するのってなんかいい。東京の天気が雨でも、他の街が晴れているとちょっと心が軽くなる。

 普段は別の天気予報アプリをメインで使っているから知らなかったんだけど、iPhoneの天気アプリが登録した都市の空模様をビジュアルで表示してくれて面白いです。東京と富山、あと自分にとって思い出深く友達がたくさん住んでいるソウル、それからガザを登録して、時々見るようになりました。天気アプリのビジュアルは本物の空の映像ではないけど、疑似ライブカメラみたいな感覚。ガザの空は晴れていてもドローンの音がうるさいのかもしれない(まさか2024年の年越しになっても続いてるなんて思わなかった……早く停戦して)、とか、氷点下のソウルには先日の尹大統領弾劾デモの熱気がまだ残っているだろうか、とか、勝手に思いをめぐらせています。皆さんがいる街の天気はどうでしょうか。

ALT:iPhoneの天気アプリで見る2024年12月29日の各地の空模様。杉並区晴れ、富山市これから雨、ソウル晴れ、ガザほぼ快晴。

ALT:iPhoneの天気アプリで見る2024年12月29日の各地の空模様。杉並区晴れ、富山市これから雨、ソウル晴れ、ガザほぼ快晴。

 年末年始、憂鬱な人もいますよね。例えばクィアの人は帰省すれば何か言われたりして疲弊するし、帰省しなくても間違ったことをしている気分になったり。お金がないと華やかな街の空気に余計みじめな気持ちになったり。パレスチナ解放デモや能登の復興に尽力してきた人なら、そんな場合かよって苛立ったり。

 うまい言葉を私は持ち合わせていないけど、うれしいことが一つでもあるように、来年も生きていくための力が削がれず、少しでも温存できる日々であるように祈っています。

■2024年を振り返る

 今年はなんといっても5月に『共感と距離感の練習』を出すことができたのが大きかったです。じわじわと売れて、ありがたいことに重版もしました。

 たくさんトークイベントをさせてもらったし、たくさん書評も書いてもらいましたね。トークと書評は編集担当の天野さんが重版記念で柏書房のnoteにまとめてくれています。その後もVOGUEとか、読売新聞の「読書委員が選ぶ2024年の3冊」で東畑開人さんが挙げてくれたりしました。

 柏書房のnoteでも挙がっていますが、国立ハンセン病資料館学芸員の木村哲也さんと古本屋 百年のXでの投稿が本当に大きかったです。自分の実感としても、お二人の投稿から届く範囲が変わった手応えがありました。本はオフラインに存在しているものだけど、地方など書店が減っている状況ではその情報もオンラインで得ることが多く、結果的にフィルターバブルの中にあるものなのかなと思います。そのバブルを突破した感じがありました。

 エゴサをしていると「評判なので読んでみました」という方が少なからずいて、皆さんの口コミの力を実感します。「今年読んでよかった本」に挙げてくれている方もちらほらいて、大変うれしい。話題にしてくれたみなさん本当にありがとうございます。

 そして重版の後押しもあって、柏書房でまたエッセイ集を作れることになりました! この年末に構成案を提出して天野さんからOKをもらったので、来年から本格的に取り組みます。書き下ろしなのでお届けには少し時間がかかりそうですが、気長に待っていてもらえたら。

 そのほか、『家父長制はいらない 「仕事文脈」セレクション』(タバブックス)の編集、『みんなどうやって書いてるの? 10代からの文章レッスン』(河出書房新社)の編著も印象深い仕事でした。

 今年は本や文芸ジャンルにたくさん関わることができてうれしかったな〜。蟹ブックスで本を売る現場に立つことができているのもうれしいし(月イチですが)、ライターの仕事でも、『週刊文春WOMAN』東畑開人さん×三宅香帆さんの対談、百瀬文さん×金川晋吾さん×森山泰地さん×斎藤玲児さんの座談会、小学館の新たな文芸誌『GOAT』で一穂ミチさんインタビューなど、面白い仕事をたくさん任せてもらえました。

 『文春WOMAN』と『GOAT』、私がサボっていたせいでニュースレターでお知らせできていなくてすみません……どちらもまだ手に入ると思うので(『文春WOMAN』は書店にはもうないかもしれないけど、オンライン書店とか電子版とかで入手できそう)ぜひ読んでください!

 それから、今年の秋から女子美術大学で非常勤講師として働いています。ビジュアルデザインを学ぶ大学1年生に、言葉を使った表現を教える必修科目です。

 1年生、教えたことを本当にスポンジのように吸収する。これは間違ったことは教えられないぞ、と緊張しながら授業をしています。でも教壇に立つのってはじめてだし、中途半端に自分の学生時代の記憶が残っているぶん(といってももう10年前ですが)「先生」にもなりきれなかったり。やってるうちに変わっていくのでしょうか。

 今期は最終課題として、言葉を使ったジンを作ってもらいました。デザイン専攻だけあってみんなレイアウトや紙にもしっかりこだわって作ってくれてている。年始の講評に向けて、三ヶ日に見ます……!

■新しいジンを作りました

 『てんしのけはい』というジンを作りました。サイゼリヤで小沼と雑談をする、という設定のジンです。表紙を見てもらうとわかりやすいと思うのですがゲームブック形式になっていて、選択によって会話が分岐していきます。

ALT:ジン『てんしのけはい』表紙。上段にタイトルと著者名と、天使の絵が掛けられたサイゼリヤの壁の写真がある。中段から下にはテキストが書いてある。

ALT:ジン『てんしのけはい』表紙。上段にタイトルと著者名と、天使の絵が掛けられたサイゼリヤの壁の写真がある。中段から下にはテキストが書いてある。

 すごい変なジンになった……でも日記やエッセイではできないことができたように思う。創作ではないけどノンフィクションでもなくて、選択によって展開が分岐していく=結末が一つではないからこそ書けることがあったという点は気に入っています。

 ちなみに雑談で出てくる話題は『ドゥーム・ジェネレーション』、『あらゆることは今起こる』、日記を書くこと、天使たち、パレスチナ解放デモ、ホックニーがiPadで描いた絵、天才てれびくん、天使たち、天使たち、などです!

 今のところ、以下のイベントで販売予定です。

1月11日(土)ZINE FEST TOKYO(会場:東京都立産業貿易センター台東館[東京都台東区花川戸2丁目6-5] 時間:12時〜17時)

1月18日(土)断片の欠片(ピース)たちを再考する (会場:現在解体中の空き家[東京都大田区下丸子2-5-21] 時間:12時〜18時)※委託販売。小沼は会場にはいません(念だけ飛ばします!)

1月26日(日)Essay (会場:水性[東京都中野区新井1-14-14 1F] 時間:12時〜19時)

3月15日(土)16日(日) Osaka Zine + DIY Fest(会場:Aダッシュワーク創造館[大阪市浪速区木津川] 時間:10時〜16時)

 ZINE FEST TOKYOはブース位置が確定したそうで、私は6階のD-9、10。『消毒日記』など小沼の初期ジンをデザインしてくれた金丸稔くん、モデルのイシヅカユウさん、拾った石のジンを作ってるまふゆさんの4人で出ます!

 また考えが変わるかもしれないけど、今のところあんまりたくさん売って広げようとは思っていなくて、小沼の手売りや親密な空気がありそうなイベントでの販売を中心にしようと思っています。コンセプトも「サイゼで雑談」だし。来られる人は足を運んでくれるとうれしい! 会場でぜひ会いましょう。

 その他、仲の良いいくつかの書店さんでも取り扱ってもらう予定です。あと、イベント会場へのアクセスが難しい人にも買ってほしいのでオンラインでも必ず販売します。ただ、購入できる期間を限定したりはするかも。なんとなく、いつでも手に入らないほうが面白いって気分なんですよね。

 2024年は個人的にうれしいことがいろいろあったけど、社会的にはめちゃくちゃな1年だったと感じます。選挙のたびに暗い気持ちになって、自分が信じていたやり方や考え方を問い直しもした。

 来年はどんな年になるかなー。希望が持てない話も多いけど、悲観しすぎず自分にできることをしていきたいし、個人的な喜びにもちゃんと目を向けていきたいです。

 今年もお世話になりました。皆さんも良いお年をお迎えください!

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